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材料読了時間 12 分

図面のあの 1 行の熱処理、現場は結局なにをするのか

熱処理は図面でいちばん文字数が少なく、コストへの影響がいちばん大きい 1 行です。工順、使える道具、そして部品が変形するかどうかを決めてしまいます。

01よく使う 5 つの熱処理

名称何をするか目的代表的な硬さ
焼なまし加熱後、炉冷軟化、内部応力の除去、被削性の改善HB 150 ~ 200
焼ならし加熱後、空冷結晶粒の微細化、組織の均一化HB 170 ~ 250
焼入れ加熱後、急冷マルテンサイト化。最も硬くなるHRC 55 ~ 65
焼戻し焼入れ後に再加熱して保持脆さを下げ、寸法を安定させる温度による
調質焼入れ+高温焼戻し強度と靭性のバランスHRC 25 ~ 35
焼入れのあとは必ず焼戻しをします。焼入れっぱなしの部品は脆すぎて使えません。

02表面硬化:外は硬く、中は粘く

表面は摩耗に強く、心部には靭性が欲しい部品は多くあります。歯車、カム、軸などです。その場合は全体焼入れではなく表面硬化を使います。

方法原理硬化層深さ適する材料
浸炭焼入れ表面に炭素を拡散させてから焼入れ0.3 ~ 2.0 mmSCM415、SCr420 などの低炭素鋼
窒化表面に窒素を拡散。焼入れ不要0.1 ~ 0.6 mmAl・Cr・Mo を含む窒化鋼
高周波焼入れ表層を誘導加熱してから急冷0.5 ~ 5 mmS45C、SCM440 などの中炭素鋼
炎焼入れ表層を炎で加熱してから急冷1 ~ 6 mm中炭素鋼、鋳鉄
窒化は処理温度が低く(約 500 °C)変形が最小なので、すでに精加工した部品に向きます。

図面の指示はふつう「浸炭焼入れ HRC58-62、有効硬化層深さ 0.8〜1.2 mm」と書きます。3 つの情報がすべて必要です。方法、表面硬さ、硬化層深さ。硬さだけで深さがなければ、耐摩耗寿命を指定したことになりません。

03硬さ表示の読み方

尺度圧子と荷重向く対象換算
HRC120° ダイヤモンド円錐、150 kgf焼入れ鋼、HRC 20〜70いちばん多い
HRB1.588 mm 鋼球、100 kgf軟鋼、銅合金HRB 100 ≈ HRC 20
HV(ビッカース)正四角錐ダイヤモンド薄物、硬化層、めっきHV 550 ≈ HRC 52
HB(ブリネル)鋼球または超硬球鋳物、大物、粗い結晶粒HB 300 ≈ HRC 32
尺度間の換算は経験値(ISO 18265)であって厳密な変換ではありません。図面が求める尺度で測ります。

04熱処理をどこに置くかで、工順全体が決まる

同じ部品でも、熱処理を精加工のに置くかに置くかで、まったく別の仕事になります。

  1. 精加工の前。熱処理の変形はあとの加工で削り落とせるので寸法精度は出ます。しかし材料はすでに硬く、研削か硬質旋削しか使えません。高価で遅い。
  2. 精加工の後。普通の切削が使えて効率的です。しかし変形は修正できないため、図面公差が変形量を吸収できるだけ広くなければなりません。
  3. 2 段階。粗加工 → 調質 → 精加工 → 表面硬化 → 研削。高精度の歯車や軸の標準的な工順で、いちばん長くいちばん高い。

だから「HRC58-62」と「円筒度 0.005」が同じ図面にあれば、それは熱処理後の研削を指定しているのと同じです。見積でここを落とすと、その受注の粗利は消えます。

05寸法も変わります

マルテンサイトはオーステナイトより比容積が大きいため、焼入れ後の部品は膨らみます。炭素鋼では線寸法で +0.05% 〜 +0.15% が典型です。200 mm の軸なら焼入れ後に 0.1〜0.3 mm 伸びることがあり、これに冷却むらによる反りや楕円が加わります。

  • 対策 1:熱処理前に研削代を残す(一般に片側 0.1〜0.3 mm)。
  • 対策 2:対称に設計し、肉厚の急変を避けて冷却むらを減らす。
  • 対策 3:治具焼入れやプレスクエンチで変形の方向を拘束する。
  • 対策 4:変形の小さい方法に替える(浸炭焼入れの代わりに窒化)。