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図面のあの 1 行の熱処理、現場は結局なにをするのか
熱処理は図面でいちばん文字数が少なく、コストへの影響がいちばん大きい 1 行です。工順、使える道具、そして部品が変形するかどうかを決めてしまいます。
01よく使う 5 つの熱処理
| 名称 | 何をするか | 目的 | 代表的な硬さ |
|---|---|---|---|
| 焼なまし | 加熱後、炉冷 | 軟化、内部応力の除去、被削性の改善 | HB 150 ~ 200 |
| 焼ならし | 加熱後、空冷 | 結晶粒の微細化、組織の均一化 | HB 170 ~ 250 |
| 焼入れ | 加熱後、急冷 | マルテンサイト化。最も硬くなる | HRC 55 ~ 65 |
| 焼戻し | 焼入れ後に再加熱して保持 | 脆さを下げ、寸法を安定させる | 温度による |
| 調質 | 焼入れ+高温焼戻し | 強度と靭性のバランス | HRC 25 ~ 35 |
02表面硬化:外は硬く、中は粘く
表面は摩耗に強く、心部には靭性が欲しい部品は多くあります。歯車、カム、軸などです。その場合は全体焼入れではなく表面硬化を使います。
| 方法 | 原理 | 硬化層深さ | 適する材料 |
|---|---|---|---|
| 浸炭焼入れ | 表面に炭素を拡散させてから焼入れ | 0.3 ~ 2.0 mm | SCM415、SCr420 などの低炭素鋼 |
| 窒化 | 表面に窒素を拡散。焼入れ不要 | 0.1 ~ 0.6 mm | Al・Cr・Mo を含む窒化鋼 |
| 高周波焼入れ | 表層を誘導加熱してから急冷 | 0.5 ~ 5 mm | S45C、SCM440 などの中炭素鋼 |
| 炎焼入れ | 表層を炎で加熱してから急冷 | 1 ~ 6 mm | 中炭素鋼、鋳鉄 |
図面の指示はふつう「浸炭焼入れ HRC58-62、有効硬化層深さ 0.8〜1.2 mm」と書きます。3 つの情報がすべて必要です。方法、表面硬さ、硬化層深さ。硬さだけで深さがなければ、耐摩耗寿命を指定したことになりません。
03硬さ表示の読み方
| 尺度 | 圧子と荷重 | 向く対象 | 換算 |
|---|---|---|---|
| HRC | 120° ダイヤモンド円錐、150 kgf | 焼入れ鋼、HRC 20〜70 | いちばん多い |
| HRB | 1.588 mm 鋼球、100 kgf | 軟鋼、銅合金 | HRB 100 ≈ HRC 20 |
| HV(ビッカース) | 正四角錐ダイヤモンド | 薄物、硬化層、めっき | HV 550 ≈ HRC 52 |
| HB(ブリネル) | 鋼球または超硬球 | 鋳物、大物、粗い結晶粒 | HB 300 ≈ HRC 32 |
04熱処理をどこに置くかで、工順全体が決まる
同じ部品でも、熱処理を精加工の前に置くか後に置くかで、まったく別の仕事になります。
- 精加工の前。熱処理の変形はあとの加工で削り落とせるので寸法精度は出ます。しかし材料はすでに硬く、研削か硬質旋削しか使えません。高価で遅い。
- 精加工の後。普通の切削が使えて効率的です。しかし変形は修正できないため、図面公差が変形量を吸収できるだけ広くなければなりません。
- 2 段階。粗加工 → 調質 → 精加工 → 表面硬化 → 研削。高精度の歯車や軸の標準的な工順で、いちばん長くいちばん高い。
だから「HRC58-62」と「円筒度 0.005」が同じ図面にあれば、それは熱処理後の研削を指定しているのと同じです。見積でここを落とすと、その受注の粗利は消えます。
05寸法も変わります
マルテンサイトはオーステナイトより比容積が大きいため、焼入れ後の部品は膨らみます。炭素鋼では線寸法で +0.05% 〜 +0.15% が典型です。200 mm の軸なら焼入れ後に 0.1〜0.3 mm 伸びることがあり、これに冷却むらによる反りや楕円が加わります。
- 対策 1:熱処理前に研削代を残す(一般に片側 0.1〜0.3 mm)。
- 対策 2:対称に設計し、肉厚の急変を避けて冷却むらを減らす。
- 対策 3:治具焼入れやプレスクエンチで変形の方向を拘束する。
- 対策 4:変形の小さい方法に替える(浸炭焼入れの代わりに窒化)。