表面品質読了時間 13 分
図面のあのチェック記号は、結局なにを要求しているのか
表面粗さは「見た目はほぼ同じ、測ると大きく違う」数少ない仕様です。そして図面上では「Ra 1.6」の一言に縮められがちで、受入検査で揉めるのもたいていこの項目です。
01記号の各欄が言っていること
粗さ記号の本体はチェック形状です。チェックだけなら加工方法を指定しない表面状態、横棒を足せば除去加工を必要とする(旋削・フライス・研削)、丸を足せば除去加工をしてはならない(鋳肌・鍛肌・引抜のまま)という意味になります。
| 位置 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| a(左) | 粗さパラメータ・上下限・数値 | Ra 1.6、Rz 6.3 |
| b(横棒の上) | 加工方法 | 研削、旋削、放電加工 |
| c(横棒の上・右) | 基準長さ/カットオフ | 0.8 |
| d(チェックの内側) | 筋目方向記号 | =、⊥、X、M、C、R |
| e(横棒の下) | 取り代 | 0.5 |
表題欄の近くにある 1 つが、図面全体を支配する
表題欄付近に描かれた粗さ記号は全体既定です。個別に指示のない面はすべてこれに従います。括弧とチェックが続いていれば「その他の面はこの値、例外は個別指示済み」と読みます。図面本体の記号だけを拾った検査表は、この大きな一群を丸ごと落とします。実際には部品の 8 割以上の面がここに含まれます。
02Ra は平均、Rz は極値
Ra(算術平均粗さ)は基準長さの中で、中心線からの輪郭のずれを絶対値にして平均したものです。安定していて再現性がよく、操作の誤差にも寛容なので、世界でいちばん多く指示されるパラメータになりました。弱点は同じ性格から来ます。深い傷が 1 本あっても平均に埋もれます。
Rz(最大高さ)は基準長さ内の最も高い山と最も深い谷の和です。単一の欠陥にきわめて敏感で、漏れが許されないシール面や、繰返し応力を受ける軸肩に Ra と Rz が併記されるのはこのためです。
| パラメータ | 定義 | 管理に向くもの |
|---|---|---|
| Ra | 輪郭のずれの絶対値の算術平均 | 加工全体の安定性、一般的なはめあい面 |
| Rz | 最大山高さ+最大谷深さ | シール面、疲労に敏感な面、単一欠陥 |
| Rmax / Rz1max | 各基準長さの Rz のうち最大のもの | 絶対に許容できない極値 |
| Rsm | 輪郭要素の平均間隔 | 筋目の周期、塗装の密着性 |
| Rmr(c) | ある高さでの負荷長さ率 | 支持面、しゅう動はめあい |
| Rsk | スキューネス(山寄りか谷寄りか) | 油膜の保持能力 |
03線から面へ:ISO 25178 の S パラメータ
従来の接触測定は線を引きます。触針が表面をある距離だけ走り、2 次元の輪郭が得られます。問題は、位置や向きを変えると数値が変わることです。とくにフライスのように筋目のはっきりした面では、刃物目に沿って測るのと直交して測るのとで大きく違います。
面粗さは領域全体を測ります。パラメータは S で始まり、ISO 25178 が規定します。Sa は Ra に、Sz は Rz に対応しますが、線測定では取れない情報が加わります。Sdr(界面の展開面積比)は実表面が投影面積よりどれだけ大きいかを表し、被膜の密着性や接触熱伝導に直結します。Spk/Svk は表面を山・コア・谷の 3 層に分け、平滑なコアと油を溜める谷が要るシリンダボアや軸受でとくに有効です。

04同じ面を 2 回測ると値が違う理由
粗さは測った値そのものではありません。表面の起伏を波長で切り分け、短波長側だけを取り出したものです。切り分け方はフィルタが決めます。
| 名称 | 記号 | はたらき |
|---|---|---|
| λs フィルタ | λs | それより短い成分(ノイズ、触針半径による偽信号)を除く |
| λc カットオフ | λc | 粗さとうねりの境目。もっとも重要な設定 |
| λf フィルタ | λf | うねりと形状偏差を分ける |
λc を変えれば、うねりとして除かれる成分が変わり、Ra も変わります。ISO は想定 Ra からλc を選ぶことを推奨しており(たとえば Ra 0.1〜2 μm には λc 0.8 mm)、評価長さは通常 5 基準長さです。したがって厳密には、測定条件のない「Ra 1.6」は不完全な仕様です。互いに違う λc を使えば、結論も違ってきます。
接触式と非接触式
- 触針式輪郭計。技術が成熟し、トレーサビリティがあり、安価です。制約は触針半径(通常 2 または 5 μm)でそれより狭い谷に入れないことと、軟質面や被膜面を傷つけることです。
- 共焦点/白色干渉/レーザ顕微鏡。非接触で面測定ができ、垂直分解能はサブナノメートルに達します。高反射面や傾斜の急な面では値が乱れます。
- 原子間力顕微鏡(AFM)。分解能は最も高いですが測定範囲が極端に狭く、速度も遅いため、量産現場よりも研究用途です。