加工方法読了時間 13 分
切削条件は、どうやって決めているのか
同じ道具、同じ機械、同じ材料でも、2 人の技能者が出す条件は倍ほど違うことがあります。そして両方とも良品ができます。違いは、それぞれが何を最適化しているかです。
Wikimedia Commons・CNC Mill 1.jpg・CC BY-SA 4.0013 つのパラメータ、3 つの式
| パラメータ | 記号 | 式 | 何を決めるか |
|---|---|---|---|
| 切削速度 | Vc (m/min) | Vc = π × D × n ÷ 1000 | 道具寿命、切削温度 |
| 主軸回転数 | n (rpm) | n = Vc × 1000 ÷ (π × D) | Vc から逆算 |
| 1 刃送り | fz (mm/tooth) | fz = Vf ÷ (n × z) | 切りくず厚さ、面粗さ、切りくず処理 |
| 送り速度 | Vf (mm/min) | Vf = fz × z × n | 実際に機械へ与える値 |
| 軸方向切込み | ap (mm) | — | 能率、軸方向の力 |
| 半径方向切込み | ae (mm) | — | 半径方向の力、振動、接触角 |
材料除去率 MRR = ap × ae × Vf ÷ 1000(cm³/min)は能率を表す単一の指標です。ただし同じ MRR でも「深く遅く」と「浅く速く」では、道具・機械・ワークへの影響がまったく違います。
02Vc を誤ると道具寿命は何倍も変わる
道具寿命と切削速度の関係はテイラーの式で表されます。Vc × T ⁿ = C。T は寿命、n は道具材種に依存する指数で、ハイスは約 0.1、超硬は 0.2〜0.3、セラミックは 0.4 以上です。指数が小さいほど寿命は速度に敏感で、超硬道具では Vc を 20% 上げただけで寿命が半分になることもあります。
| 材料 | 超硬エンドミルの Vc (m/min) | 備考 |
|---|---|---|
| アルミ 6061 | 300 ~ 1000 | 構成刃先を嫌うので、むしろ高速に |
| 低炭素鋼 S45C | 120 ~ 200 | もっとも一般的な基準 |
| ステンレス SUS304 | 80 ~ 140 | 加工硬化が激しく、切込みを浅くしてはいけない |
| 鋳鉄 FC250 | 100 ~ 180 | 切りくずは切れるが摩耗性が強い |
| チタン Ti-6Al-4V | 30 ~ 60 | 熱伝導が悪く、熱が刃先に残る |
| 焼入れ鋼 HRC50+ | 50 ~ 120 | CBN またはセラミック道具が必要 |
031 刃送り:小さすぎるほうが大きすぎるより悪い
直感的には送りが小さいほど面がきれいで安全に思えますが、そうではありません。1 刃送りが刃先丸みより小さくなると、刃は材料に食い込めず押しのけるだけになり、摩擦熱が大量に出て刃先が急速に摩耗し、面はかえって悪くなります。これがプラウイング(押しのけ)です。
- 下限。fz は刃先丸み(一般に 0.02〜0.05 mm)を下回らないこと。
- 上限。道具強度、機械出力、要求される面粗さで決まります。
- 面粗さ。旋削では理論値が Rz ≈ f² ÷ (8 × ノーズ R) なので、ノーズ R を大きくすれば同じ送りでも良い面が得られます。
切りくずの薄化
フライスで半径方向切込み ae が道具半径より小さいと、実際の切りくず厚さは fz より薄くなり、その比はおよそ √(ae/D) です。だから ae が小さく ap が大きい高速加工では、有効な切りくず厚さを保つために fz を上げる必要があります。さもないと再びプラウイングに戻ります。
04切込み:能率と振動の兼ね合い
| 打ち手 | ap | ae | 向く場面 |
|---|---|---|---|
| 一般的なフライス | 小(0.5〜2 mm) | 大(0.5〜1 D) | 機械剛性が並、荒加工 |
| 高速加工 HSM | 大(1〜2 D) | 小(D の 5〜10%) | 剛性の高い機械、深いポケット、硬材 |
| トロコイド | 大 | 小さく、経路は円弧を描く | 溝加工。全周接触を避ける |
戦略を誤ったときの典型的な症状がびびりです。びびりは切削力の周波数が系の固有振動数に近づくことで起きるので、対策は必ずしも「回転を落とす」ではありません。むしろ上げて共振域を跨ぐ、あるいは ae を変えて刃の出入り周波数をずらすほうが効くこともあります。
05カタログどおりに設定してもうまくいかない理由
- カタログの条件は十分な機械剛性を前提にしています。古い機械、長いホルダ、薄肉ワークでは、実際に使える条件は大きく下げざるをえません。
- クーラントが合っていない。同じ道具でも乾式・エアブロー・水溶性で Vc の上限はまったく違います。断続切削で被膜によっては、クーラントをかけると熱衝撃で欠けることもあります。
- 突き出し量が無視されている。道具の突き出しが 2 倍になれば、たわみはおよそ 8 倍(3 乗の関係)になります。
- ワークの掴み方。バイスで問題なく回る条件でも、真空チャックではワークを押し飛ばすことがあります。