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図面判読読了時間 14 分

幾何公差を読む第一歩は、データムを見つけること

図面でいちばん飛ばされやすいのが、2 つ 3 つに区切られた小さな枠です。あれは注釈ではありません。その部品が組み付くかどうかを決める判定基準であり、寸法公差だけでは決して埋まらない穴を埋めるものです。

01寸法公差だけでは足りない理由

軸の直径をどこで測っても Ø20 h7 に入っている。それなら合格に聞こえます。しかし軸全体が曲がっていれば、穴には入りません。これは仮の話ではなく、寸法公差の本質的な限界です。2 点測定は「向かい合う 2 点がどれだけ離れているか」しか拘束せず、曲がっているか、面が傾いているか、穴がずれているかは見ていません。

幾何公差(GD&T)は、その穴を埋めるために存在します。拘束するのは寸法ではなく、形体そのものの形状、データムに対する姿勢位置、そして回転させたときの振れです。ISO 1101 と ASME Y14.5 が二大規格で、記号はおおむね共通ですが、包絡の考え方と既定値に重要な違いがあります。

02公差記入枠の 3 区画

標準的な公差記入枠は左から 3 つの区画に分かれ、それぞれが 1 つの問いに答えます。

区画内容何に答えるか
1 番目幾何特性記号何を管理しているか、平行度か、位置度か、円筒度か
2 番目公差値(Ø や付加記号が付くことも)どれだけのずれを許すか、公差域はどんな形か
3 番目以降データム文字(1〜3 個)何を基準に測るか
3 つの区画。3 番目以降には複数のデータムが並び、その順序には意味があります。

公差値の前の Ø は飾りではありません

位置度を「0.1」と書くのと「Ø0.1」と書くのは別物です。Ø がなければ公差域は 0.1 離れた 2 平面で、1 方向しか拘束しません。Ø を付けると直径 0.1 の円筒になり、2 方向を同時に拘束します。穴の位置度にはほぼ必ず Ø が要ります。穴はどの方向にもずれうるのに、2 平面で囲うのは筋が通らないからです。

数値のあとに付く付加記号

記号名称意味
最大実体公差手段 MMR最大実体状態に近いほど、公差を広く取れる
最小実体公差手段 LMR最小実体状態に近いほど、公差を広く取れる
自由状態非剛性部品を外力のかからない状態で測定する
突出公差域公差域を部品の外へ延長し、ボルト締結後の干渉を管理する
包絡の要求寸法と形状をあわせて考える(ISO では明示が必要)
よく使う付加記号。実務でいちばん多く、いちばん見落とされるのが Ⓜ です。

0314 の記号、4 つの分類

ISO 1101 の幾何特性は 4 つに分けられます。分かれ目は単純で、データムが要るかどうかです。

分類記号と名称データム
形状公差真直度、平面度、真円度、円筒度、線の輪郭度、面の輪郭度不要(輪郭度はどちらもあり)
姿勢公差平行度、直角度、傾斜度必要
位置公差位置度、同心度/同軸度、対称度必要
振れ公差円周振れ、全振れ必要
4 分類の境目。データムを書かない平行度は意味を持ちません、何に対して平行なのか。

形状公差:形体それ自身を見る

真直度は線がどれだけまっすぐか、平面度は面がどれだけ平らか、真円度は断面がどれだけ丸いかを管理し、円筒度は丸さとまっすぐさを同時に見ます。円筒度は真円度・真直度・円筒面の平行性を合わせたものです。この分類にデータムが要らないのは、比較する相手が形体自身の理想形状だからです。

姿勢と位置:関係の公差

平行度・直角度・傾斜度は角度の関係を、位置度・同軸度・対称度は位置の関係を管理します。注意点したいのは、位置度の公差域が理論的に正確な寸法(TED、四角で囲った寸法)で決まる理想位置を中心にしていることです。囲み寸法には公差がなく、公差はすべて位置度が背負います。

振れ:一回転させて指針を見る

円周振れは、部品をデータム軸に載せて 1 回転させ、指示器を 1 か所に固定して振れ幅を読みます。全振れは指示器を母線に沿って動かしながら回転させ、面全体を管理します。振れ公差は形状誤差と偏心の両方を含むため、「組み付けたときに振れるか」にいちばん近い実用的な指標です。

04データム:順序が置き方を決める

データム A・B・C には順序があり、その順序は座らせて締める順番を表します。初心者がいちばん誤解するところです。データム欄の文字は適当に並んでいるのではありません。

  1. 第一データムはふつう面積が最大で、いちばん安定して支えられる平面です。まずここに部品を当て、理論上 3 点で接触し、3 つの自由度を拘束します。
  2. 第二データムが回転と 1 方向の並進を拘束します。理論上は 2 点接触です。
  3. 第三データムが残る 1 自由度を止めます。1 点接触です。

つまりデータム系とは「検査のときに部品をどう置くか」の記述です。A|B|C を B|A|C と書けば、測って出てくる数値は設計者が意図したものではなくなります。治具上での姿勢がまったく別物になるからです。

05どう測るか:ダイヤルゲージから三次元測定機まで

幾何公差の測定方法は、それが何を拘束しているかで決まります。

特性よくある測定方法注意点
平面度定盤+ダイヤルゲージ、オプチカルフラット、CMM 走査測定点が粗いと誤差を小さく見積もってしまう
真円度真円度測定機(回転軸)、V ブロック+ダイヤルゲージV ブロック法は奇数山の形状で値が狂う
平行度/直角度スコヤ+ダイヤルゲージ、CMM先にデータム面を確立する必要がある
位置度CMM、機能ゲージ(通りゲージ)Ⓜ が付いていれば機能ゲージがいちばん素直
円周振れ両センタ+ダイヤルゲージデータム軸の据え方で結果が大きく変わる
測定方法に唯一の正解はありませんが、図面のデータム系と一致していなければなりません。
三次元測定機(CMM)は一度の段取りでほとんどの幾何特性を測れます。ただしデータムが正しく設定されていることが前提です。
三次元測定機(CMM)は一度の段取りでほとんどの幾何特性を測れます。ただしデータムが正しく設定されていることが前提です。Wikimedia Commons・Example of a Cylindrical Coordinate Measuring Machine・CC BY-SA 4.0

06よくある 3 つの誤り

  • 姿勢公差だけ書いて形状公差を書かない。平行度は平面度も間接的に制限しますが、設計が本当に気にしているのが平面度なら、分けて指示しないと数値の意味が定まりません。
  • 加工面以外にデータムを取る。データムは安定して掴め、機能に関係する形体に取るべきです。粗い鋳肌面に取れば測定の再現性は落ちます。
  • 位置度に Ø を付けない。穴群の位置度に Ø がなければ 1 方向しか管理していないことになり、実務上はほぼ確実に指示ミスです。