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幾何公差を読む第一歩は、データムを見つけること
図面でいちばん飛ばされやすいのが、2 つ 3 つに区切られた小さな枠です。あれは注釈ではありません。その部品が組み付くかどうかを決める判定基準であり、寸法公差だけでは決して埋まらない穴を埋めるものです。
01寸法公差だけでは足りない理由
軸の直径をどこで測っても Ø20 h7 に入っている。それなら合格に聞こえます。しかし軸全体が曲がっていれば、穴には入りません。これは仮の話ではなく、寸法公差の本質的な限界です。2 点測定は「向かい合う 2 点がどれだけ離れているか」しか拘束せず、曲がっているか、面が傾いているか、穴がずれているかは見ていません。
幾何公差(GD&T)は、その穴を埋めるために存在します。拘束するのは寸法ではなく、形体そのものの形状、データムに対する姿勢と位置、そして回転させたときの振れです。ISO 1101 と ASME Y14.5 が二大規格で、記号はおおむね共通ですが、包絡の考え方と既定値に重要な違いがあります。
02公差記入枠の 3 区画
標準的な公差記入枠は左から 3 つの区画に分かれ、それぞれが 1 つの問いに答えます。
| 区画 | 内容 | 何に答えるか |
|---|---|---|
| 1 番目 | 幾何特性記号 | 何を管理しているか、平行度か、位置度か、円筒度か |
| 2 番目 | 公差値(Ø や付加記号が付くことも) | どれだけのずれを許すか、公差域はどんな形か |
| 3 番目以降 | データム文字(1〜3 個) | 何を基準に測るか |
公差値の前の Ø は飾りではありません
位置度を「0.1」と書くのと「Ø0.1」と書くのは別物です。Ø がなければ公差域は 0.1 離れた 2 平面で、1 方向しか拘束しません。Ø を付けると直径 0.1 の円筒になり、2 方向を同時に拘束します。穴の位置度にはほぼ必ず Ø が要ります。穴はどの方向にもずれうるのに、2 平面で囲うのは筋が通らないからです。
数値のあとに付く付加記号
| 記号 | 名称 | 意味 |
|---|---|---|
| Ⓜ | 最大実体公差手段 MMR | 最大実体状態に近いほど、公差を広く取れる |
| Ⓛ | 最小実体公差手段 LMR | 最小実体状態に近いほど、公差を広く取れる |
| Ⓕ | 自由状態 | 非剛性部品を外力のかからない状態で測定する |
| Ⓟ | 突出公差域 | 公差域を部品の外へ延長し、ボルト締結後の干渉を管理する |
| Ⓔ | 包絡の要求 | 寸法と形状をあわせて考える(ISO では明示が必要) |
0314 の記号、4 つの分類
ISO 1101 の幾何特性は 4 つに分けられます。分かれ目は単純で、データムが要るかどうかです。
| 分類 | 記号と名称 | データム |
|---|---|---|
| 形状公差 | 真直度、平面度、真円度、円筒度、線の輪郭度、面の輪郭度 | 不要(輪郭度はどちらもあり) |
| 姿勢公差 | 平行度、直角度、傾斜度 | 必要 |
| 位置公差 | 位置度、同心度/同軸度、対称度 | 必要 |
| 振れ公差 | 円周振れ、全振れ | 必要 |
形状公差:形体それ自身を見る
真直度は線がどれだけまっすぐか、平面度は面がどれだけ平らか、真円度は断面がどれだけ丸いかを管理し、円筒度は丸さとまっすぐさを同時に見ます。円筒度は真円度・真直度・円筒面の平行性を合わせたものです。この分類にデータムが要らないのは、比較する相手が形体自身の理想形状だからです。
姿勢と位置:関係の公差
平行度・直角度・傾斜度は角度の関係を、位置度・同軸度・対称度は位置の関係を管理します。注意点したいのは、位置度の公差域が理論的に正確な寸法(TED、四角で囲った寸法)で決まる理想位置を中心にしていることです。囲み寸法には公差がなく、公差はすべて位置度が背負います。
振れ:一回転させて指針を見る
円周振れは、部品をデータム軸に載せて 1 回転させ、指示器を 1 か所に固定して振れ幅を読みます。全振れは指示器を母線に沿って動かしながら回転させ、面全体を管理します。振れ公差は形状誤差と偏心の両方を含むため、「組み付けたときに振れるか」にいちばん近い実用的な指標です。
04データム:順序が置き方を決める
データム A・B・C には順序があり、その順序は座らせて締める順番を表します。初心者がいちばん誤解するところです。データム欄の文字は適当に並んでいるのではありません。
- 第一データムはふつう面積が最大で、いちばん安定して支えられる平面です。まずここに部品を当て、理論上 3 点で接触し、3 つの自由度を拘束します。
- 第二データムが回転と 1 方向の並進を拘束します。理論上は 2 点接触です。
- 第三データムが残る 1 自由度を止めます。1 点接触です。
つまりデータム系とは「検査のときに部品をどう置くか」の記述です。A|B|C を B|A|C と書けば、測って出てくる数値は設計者が意図したものではなくなります。治具上での姿勢がまったく別物になるからです。
05どう測るか:ダイヤルゲージから三次元測定機まで
幾何公差の測定方法は、それが何を拘束しているかで決まります。
| 特性 | よくある測定方法 | 注意点 |
|---|---|---|
| 平面度 | 定盤+ダイヤルゲージ、オプチカルフラット、CMM 走査 | 測定点が粗いと誤差を小さく見積もってしまう |
| 真円度 | 真円度測定機(回転軸)、V ブロック+ダイヤルゲージ | V ブロック法は奇数山の形状で値が狂う |
| 平行度/直角度 | スコヤ+ダイヤルゲージ、CMM | 先にデータム面を確立する必要がある |
| 位置度 | CMM、機能ゲージ(通りゲージ) | Ⓜ が付いていれば機能ゲージがいちばん素直 |
| 円周振れ | 両センタ+ダイヤルゲージ | データム軸の据え方で結果が大きく変わる |

06よくある 3 つの誤り
- 姿勢公差だけ書いて形状公差を書かない。平行度は平面度も間接的に制限しますが、設計が本当に気にしているのが平面度なら、分けて指示しないと数値の意味が定まりません。
- 加工面以外にデータムを取る。データムは安定して掴め、機能に関係する形体に取るべきです。粗い鋳肌面に取れば測定の再現性は落ちます。
- 位置度に Ø を付けない。穴群の位置度に Ø がなければ 1 方向しか管理していないことになり、実務上はほぼ確実に指示ミスです。